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藍と向き合う、
日々の記録。

田中直染料店のスタッフが、Watanabe's の蒅藍建てキットで実際に藍を 育てながら綴っている記録です。うまくいった日のことも、思うように いかなかった日のことも、ありのままに残しています。

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蒅のいる日々。

青みが戻ってから、決まった時間に蒅と向き合う日々が続きました。派手な出来事のない、蒅と過ごす時間の記録です。

5月9日、濃い青を見ることができました。ここまで何度も揺れ動いてきた分、ようやく落ち着いて向き合える段階に入ったのだと感じました。

木工が趣味の社長が、「これで撹拌してみて」とお手製の攪拌棒を作ってくださり、それからは毎日、蒅をその攪拌棒で育てる日々が続きました。私は決まって17時を過ぎた頃に手入れをしています。温度を測り、pHを計り、サンプルを取って撹拌する。この一連のルーティンは、いつしか一日の中で欠かせない、心地よい時間になっていました。

毎日、匂いも、混ぜたときの液のとろみも、少しずつ違います。五感を通してその都度違う反応を返してくれる蒅を前に、これは本当に生きているのだと、あらためて実感しました。

6月に入ると、青みがやや出ない日もあれば、匂いがどこか甘く感じられる日もあり、日によってさまざまな表情を見せてくれました。7月に入ってからは気温の高い日が続き、蒅の温度も25℃前後で安定するようになりました。

そうして、蒅と過ごす日々を重ねながら7月22日を迎えようとしています。この蒅藍建てキットを、ようやくお店に置くことができる日を、心待ちにしています。

青を見つけて、失って。

4Lサイズでの藍建てを、暖かくなった季節に合わせて再開しました。今度こそという思いで臨んだこの一ヶ月は、忘れられない青との出会いと、その青を一度失ってしまう出来事の両方を私に教えてくれました。

4月8日、4Lサイズでの藍建てを開始しました。気温も安定してきており、渡邉さんに教えていただいた通り、暖かい時期のほうが液の状態も安定しやすいはずだと、期待を持って液を仕込みました。

仕込みから6日目の4月13日、pHが9.6まで下がってきたのを確認し、貝灰を投入しました。そして翌4月14日、ついに初めての青みが現れます。これまで見たことのないほど透き通った青でした。この色は一生忘れないだろうと、そのとき強く思ったのを覚えています。

その喜びも冷めやらぬ翌日、社長と食事に出かけ、ささやかな祝杯を上げました。

順調そのものに見えていた矢先、4月17日、pHが9.8まで下がったため、これまでと同じ手順で貝灰10gを投入しました。慣れた手つきだったこともあり、また青みが増すだろうと疑っていませんでした。ところが翌日、蓋を開けると、明らかに様子のおかしな膜が張っていました。匂いもしません。試しにサンプル布を染めてみると、普段は下に沈殿しているはずの蒅が液中に分散しており、生地にはわずかにくすんだ青が残るのみで、あの美しい色は失われていました。以前と同じような展開に、嫌な既視感を覚えました。

そんな中、5月2日、渡邉さんが京都でのイベントにお越しになる機会がありました。液の状態を見ていただき、麩と木灰汁を追加していただくとともに、コツも教えていただきました。すると翌5月3日、液は一瞬で青みを取り戻しました。改めて、渡邉さんの技術と経験の確かさを実感した出来事でした。

あの日、託された蒅。

徳島県上板町、Watanabe'sさんの工房に初めてお邪魔させていただきました。見渡す限りの藍畑、木造の作業場に流れる空気。そして最後には、思いがけない展開が待っていました。

工房に着いてまず目を奪われたのは、見渡す限りに広がる藍畑と、想像を超える大きさの収穫機でした。実際に目にすると、これまで扱ってきたキットの規模とはまるで違う世界が、日々ここで動いているのだと実感します。

案内していただいた工房は木造で、随所に手仕事の跡が感じられました。室内には明るめのジャズが流れていたが印象に残っています。ちょうど切り返しをしたばかりの蒅も見せていただき、においや手触りひとつひとつが初めて知ることばかりで、刺激的でした。

見学がひと段落したところで、以前育てていた蒅を、容器が割れたことで駄目にしてしまった経緯を正直にお伝えしました。渡邉さんは責めることなく、丁寧に理由を説明してくださいました。ミニキットは容量が小さい分、温度や貝灰の投入量によってpHが急激に上がりやすく、管理の難易度自体が高いのだと。容量が大きいほうが液全体の状態は安定しやすいとのことでした。

その説明を聞き、「小さいサイズだからこそ難しかったのか」と、悔しさとともに納得する部分もありました。それでも、ここで諦めたくないという気持ちは強く残りました。

すると渡邉さんが「実は新しいサイズのキットを準備しているところで」と、奥から箱を持ってきてくださいました。中に入っていたのは4Lサイズの蒅。「このサイズであれば、より安定して育てられると思います」とのお言葉とともに、その場で託していただくことになりました。思いがけない申し出に、帰り道は終始その箱を大切に抱えていたのを覚えています。

工房を後にする前、最後に「寒い時期でも育てられるが、暖かい時期のほうが安定しやすい」ということも教えていただきました。それであれば、次は春の暖かい日に藍建てを行おうと、心の中で決意しました。今度こそ、必ず青くする。その思いを胸に、工房を後にしました。

蒅、死す

pH計を導入してから約1週間。
ようやく数値も下がり始め、「さあ、これから」と思った矢先、まさかの出来事が起きた。容器が割れたのだ。

蒅で液を作る際には、浅く広い容器よりも、細長く深い容器が良いと教えてもらった。
沈殿した蒅、中間層、上澄みの層に分けるためだそうだ。
1L程度の量に適した容器を探し、私はプラスチックのお茶ポットを採用した。
夕方、いつものようにpHを測り、12.4という数字を見る。
あともう少し。
あともう少しで、染めることができる。
このひと月ほど、毎日様子を見ているうちに、すっかり愛着が湧いてきていた。
名前もつけた。
「もう少しだぞ」と思いながら攪拌していると、突然、
「バキッ!」
嫌な音がした。
その時にはもう、机の上に藍液とふやけた蒅が散らばっていた。

リトマス紙の罠。藍はすでに限界を超えていた

藍を建て始めてから、なかなか「青くなった!」と感じる日が来ない。
渡邉さんに相談したところ、一度直接、藍の様子を見ていただけることになった。

藍を建て始めてから数日。
若干の青さが見えたものの、すぐに色が出てこなくなってしまった。
渡邉さんにも相談し、しっかりとかき混ぜること、容器の蓋を締め切らずに少し開けておくことなど、細かなポイントまでアドバイスをいただく。
しかし、なかなか青くならない。
ちょうど徳島へ出張の予定が入っていたので、渡邉さんに直接見ていただけることになった。
まずは、pHを測る。
計測値は13を超えていた。
リトマス紙による計測では、正確なpH値が把握できておらず、藍が順調に活動できる範囲を大きく超えてしまっていたのだ。
しばらくは1日に1回攪拌をして、pHが下がるまで待つことになった。

藍建て初日、私はまだ何も知らなかった

これまで蒅藍は、取扱商品の一つだった。
けれど渡邉さんと出会い、話を重ねるうちに、いつしか私は蒅そのものに魅せられていた。

渡邉さんから預かった、1L程度の藍液を作る蒅藍建てキット。
普段は還元剤とアルカリ調整剤の力で、すぐに染められる状態にしている私にとって、発酵建てはまったく新たな挑戦だった。
蒅、木灰、貝灰、麩。
天然物のみで揃えられたこのキットに、ワクワク感しかない。
ただ一つ、渡邉さんからは「pH計はデジタルで」とアドバイスをいただいていた。
しかし私は、「どうせやるならすべて天然系で!」と、リトマス紙で計測することにした。
これが後に、痛い目を見ることとなる。